「『グッドデザイン賞』は、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する、総合的なデザインの推奨制度です。その母体となったのは、1957年に通商産業省(現経済産業省)によって創設された『グッドデザイン商品選定制度(通称Gマーク制度)』であり、以来50年以上にわたって、私たちの暮らしと産業、そして社会全体を豊かにする『よいデザイン』を顕彰し続けてきました。その対象はデザインのあらゆる領域にわたり、受賞数は毎年約1,000件、55年間で約38,000件に及んでいます。」
(http://www.g-mark.org/about/a01.html)
子供のころなんとなく目にしていたマークにこのGマークやJISマークがあります。ベルマークの方が記憶に残っている方もいるかもしれませんが。
どちらも通産省が主体となって整備された制度ですが、JISは日本工業規格といい、精度や効率にかかわる標準化を目指し、たいへんシンプルで目的が明確なのではないかと思います。一方、デザインというのはあいまいでその評価も難しい面があると思いますが、僕が考えるデザインとは、美しさやかっこよさなど感覚的なものではなく、しくみやなりたち…つまり、そのアイデンティティがどこに由来し、どのような道すじを通って、いかに表わされているか、がその視点だと思っています。
グッドデザイン賞の審査基準は多岐にわたり、応募書類には12もの項目でその趣旨を述べなければなりませんでした。デザインの分野というのは本当に幅広く、大手前の後輩で55年卒の季里さんもデジタル絵本という分野で昨年受賞されています。
(記事は中日新聞1月16日 クリックすると大きな紙面が見られます)
受賞した「WOODENBOX/明治学院大学13号館」の写真パネルを中心に、「環境世界としての建築−展」と題する作品展と建築セミナーを1月に、NPOアースワーカーエナジー主催で開催していただきました。その時に建築やデザインを「環境世界」として説明しました。
建築とは屋根や床、柱や壁によって囲まれ、つくられるものと考えられるかもしれませんが、そうではなく、さまざまな意味するもの、私たちに意味を投げかけてくるものによって囲まれ、つくられているのだと考えるからです。環境というと、自然現象だけがその対象のように思われますが、それだけではなく、生活や行動するための、実にさまざまなものが環境をつくっていると言えます。
それは、私たちの周りにある、いろいろな意味が私たちに投げかけてくる世界であり、環境世界とは意味の世界であると考えています。
まちを歩くとそれをよく実感します。私たちに投げかけられるさまざまな意味するものによって、私たちは歩いています。それでまちの本当の姿が見えてきます。
ショーウィンドウや素敵な看板によってお店に導かれたり、広場を横切ったところ、オレンジ色のカフェの角のところ、コンビニの角を曲がったところ、といったようにまちを認識したりしています。また、川を越えやり、橋を渡ったり、トンネルを抜けたり、することによって、まちに入ったといった実感をします。
特に子供たちはそれがよくわかっています。
ある時は、アスファルトがめくれ上がっていた道の端が子供たちにとってソファになっていました。またある時は、駅の待合のベンチの前に、自分の小さなキャリー持ってきて、それに座ってベンチの上でお弁当を食べていました。アスファルトの斜めの形状が横になって休むためのソファの意味を、待合のベンチが食事のためのテーブルという意味を子供たちに与えていたのですね。
つまり「私たちの周りのモノが与える情報によって私たちは行動している。」となります。言いかえれば、行動や感覚をつくりだす、いろいろな意味によって、私たちは生活している、と。
それは言葉による意味の場合もあり、それらは詩や小説や物語の世界につながっていきます。ユーミンはファミレスでひそかに若い人たちのいろいろな言葉を集めていると聞きますが、彼女は集めた意味を並べ変えて「音楽という環境世界」をつくっている、と考えることができます。同じように、まちや私たちの周りの、行動や生活や感性をつくるいろいろな意味を集めて、あるべき姿に並べ変えて「建築という環境世界」を考えていると言えます。こんなように建築とか空間とかデザインというのは行動や生活や感性をつくる意味の集まりであると考えているのです。
さて、明治学院大学13号館ですが、審査員の講評を読んでいただくと、その目的がわかっていただけると思います。
「木構造を構造体ではなく建物のファサード(都市とのインターフェイス)に用い、あらためて木の景観の価値を投げかける建築デザイン。都心部に位置する大学のサテライト施設として建設されたもので、耐久性を考慮してチーク材の木格子でファサード全面を被っている。透過性のある木格子は、アノニマスな外観を創り出し、外と内をゆるやかに隔て、日本の伝統的な木造民家が織りなしてきた光と影、風通し、人の視線など、見えがくれのデザインを公的施設に適用した優れた事例といえる。」
明治学院大学はヘボン式ローマ字で有名なヘボン博士が創立した古いミッションスクールです。キャンパスは港区白金台にあり、都心の住宅地に接しています。古い宣教師館やチャペルも残っており、それらは木や煉瓦でつくられ、時代を超えて引き継がれ、今に至っています。それらに負けない建築をつくろうと大学の担当部署の人たちと語り合ってきました。
設計がスタートして考え始めたころから、「木」か「煉瓦」か、どちらかで伝統を継承しよう。それで格子をつくろう。そして、格子の間から入ってくる光や風によって、日本の古い民家のような空間にしようと考えていました。
大学側がメンテナンスは大変だけれど、でも「木」にしようと決断し、木の格子になりました。島崎藤村が古い卒業生でその縁で小諸市と産学連携活動を行っており、最初は小諸のカラマツを使おうとしました。
これからの大学は地域に開放され、その拠点となる必要があります。住宅地に接しているので街並にやさしく、かつては日本のどこにもあった木の景観を復活させるような建築にしようと考えました。また、格子にすることにより、視線もやわらげ、開放感はあるけれど、プライバシーも確保しています。民家の格子の中の土間のようなイメージを持っていました。
13号館に入ってみるとその内部は、光と影によって明暗が織りなされ、格子が光をコントロールし明るさを確保するばかりでなく空気を暖め、温度の低い部分と高い上層部によって空気の循環を生みだしています。
また、強さを持った格子の表現とするため、民家のような繊細な縦格子ではなく、煉瓦を積むように木組みをしています。籠のようといわれる所以ですし、正倉院のような雰囲気も持っています。
小諸のカラマツで検討を始めた木の素材はチークにすることになりました。日本古来の杉や檜、松の方がいいのではないか、日本の都市空間にチークでいいのかと悩みましたが、都市の厳しい環境の中で耐えられる素材ということでチークにしています。また、木の中に樹脂を注入した不燃木材という燃えない素材もありますが、まだ問題も多く、自然の木の素材を使っています。
チークはラオス産です。コストが安いためですが、チークの品質や精度も心配だし、新興国の自然環境を破壊するものになっていないか、ラオスまで行って見てきましたが、かつて日本の風景をつくっていた柿の木のように、チークが民家の庭先のいたるところに見かけられたので安堵して帰ってきました。
残念なことに今、日本では木を使って建築をつくることはレアで特別なことになってしまいました。でも、ごく自然に当り前のように木を使い、それが日本の町のあちらこちらに展開されるよう景観を思い描くことができれば、新しい日本の原風景を再構築していけるのだろうと考えています。
僕にとっては『特別な木の箱』となったWooden Box、お時間のある時に一度どんなのかな〜と見に行ってみてくださいね。
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