大阪府立大手前高校昭和50年卒同窓会     学年新聞vol_21  
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vol_21_03    柴犬日記4   by 寝惚堂主人 

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【某年某月某日】 晩冬

今更な話だが柴犬は日本犬である。さらに当たり前の話だが日本の風土に適応している。 夏は下毛が抜けて薄くなり、冬は増えてふかふかになって、暑さ寒さに対応しているのである。
その間に抜ける毛の多さといったら並みではない。 毛糸が紡げるかと思うほどに抜けるんである。当然、家の中は常に犬の毛が落ちていることになる。 来客には必ず「黒い衣服では来ないように」と告げ、「コロコロ」つまり粘着シートローラーをあちこちに備えねばならぬ。

近頃、それだけではないことに気づいた。 冬になると脂肪を溜め込み、太るのである。夏は同じだけ食べても太らない。 我が家ではこれを「冬柴」と呼んで太った犬を愛でてきた。

しかしこれはヤバくないか。 気がつけば首の周りに幾重にも「輪っか」ができている。 ハラも出てきたようである。考えてみればこやつも中年、オッサン太りかもしれぬ。 これではいかんとシェイプアップ作戦を決行することにした。

<冬柴>


【某年某月某日】

シェイプアップ作戦と称して、散歩を長くしたりいろいろしたがあまり効果は上がらぬ。ついでながら小生の体重も全く変わらなかった。

それも道理で、散歩の時間を長くしたからといって必ずしも「長く歩く」とは限らない。なぜといって、近所の散歩では決まった公園に行くだけだからである。そこには知り合いがたくさんいる。いわゆる「犬端会議」状態で、犬は歩くより止まっている時間の方が長いくらいである。おまけに、知り合いのご婦人方が「待っていてえらいわねぇ」と<ごぼうび>をくださる。つまりおやつである。消費カロリーよりも摂取カロリーの方が多いんである。

それならずっと道を歩けばいいではないかと言われるだろうが、こやつは頑強に自分の道を変えようとせぬ。無理に引っ張れば犬の虐待か誘拐と間違われるであろう。ではどうするか。

【某年某月某日】 早春その1

というわけで遠出することにした。行き先にはドッグランがある。これで心置きなく犬も走れようし小生は走らなくて済むという訳である。

犬を車に積み、やってきた先は山に近く、いまだ春浅い場所であった。まずはあたりを散歩させる。冬はスキー場だというそこは、斜面のところどころに雪が残り気持ちの良い風が吹いていた。ドッグランではないので、長いリードをつけて歩かせてみる。

ビビリの割に、見知らぬ場所をえらく嬉しそうに歩く。小生はタイヘンである。ゲレンデであるから、結構な傾斜地なのだ。…息が切れる。追いつけない。はるか遠くの山に帰る勢いで、どこまでもどこまでも犬は歩いていく。ま、待ってくれ。

<山に帰る>


そのうち、ふと姿が見えなくなった。焦ってリードを手繰りつつ追いかけると、…穴の中に納まっていた。

なんだかえらく気持ち良さそうにおさまっている。視線の先は山である。 我が犬を見ているととてもそうは思えないが、柴犬というのは山野を駆け巡る猟犬であったそうな。ビビリなこやつには務まらぬであろうが。猟どころかえって獲物にされてしまうに違いない。

だがしかし。穴の中の犬を見ていると、枯れ草の色がまことに良く似合っている。犬も、野にあって輝くケモノなのであろう。

今日は「犬と泊れる宿」なるものに泊り、明日ドッグランに連れて行くことにした。 付け加えれば、見知らぬ場所に連れ込まれた我が犬はビビリの本領を発揮し、飲まず食わず眠らずの夜を過ごしたのであった。なさけねー。

<穴の中>


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