●昨年の文部科学省表彰に引き続き、今回は、総務省傘下の財団法人・逓信協会前島賞の受賞、おめでとうございます。
前島賞はどういう賞ですか。どういう人が対象になるのですか。
◇ありがとうございます。明治時代の郵便事業の開祖である前島密を記念して創設された賞で、今年で54回になります。
文部科学大臣表彰では「新規性」「有効性」という科学や技術の観点からの評価が中心でしたが、前島賞は「実用性」の観点が評価の対象になるものと思います。つまり郵便事業や通信事業の実用化に貢献し、人々の役に立った貢献をした事が重要となります。
●なるほど〜。受賞された守倉くんの研究はどういうものですか。
◇受賞は皆様がノートパソコンをインターネットに接続するときに良く用いられる無線LANの研究・実用化に関係するものです。
10年前当時は1〜2Mbit/sという無線LANの伝送速度だったのを、一気に54Mbit/sという伝送速度まで高める研究成果でした。
●専門的な内容を一般人にわかりやすく説明するのは難しいと思いますが、さすがですね。よくわかりました。
私たちの生活にも直接、関係する研究なんですね。
◇この研究は1997年〜2002年頃主に行っていたものです。
当時は、銅線ケーブルで通信を行うADSL方式や光ファイバーで通信を行うブロードバンド通信がいよいよ始まろうとしていた時期でしたが、
家庭内では、通信ケーブル(電話線ではなくイーサネットケーブルと呼ばれるもの)を引きまわす必要があり、なかなか奥様方には美観上不評なものでした。家を新築する時にイーサネットケーブルを壁の中に配線しておけば良いのですが、なかなかそのような訳にはいきません。そこで無線LANの開発が必要ということで、研究を開始しました。
●イーサネットケーブルって、赤やら青やら灰色のちょっと太めのケーブルですね。うちの中でのたくっていました。確かに見苦しいし、ひっかかったり、ドアが閉まらなくてやっかいものでした。今のパソコンはたいてい、ケーブルなしでインターネットにつなげますが、これは守倉くんの研究の成果なんですね!それって、特許なんですか?
◇無線LANだけでなく、多くの製品には複数の特許が関係しています。私の特許も当然含まれますが、それだけではないです。
私たちが実際に行ったのは、従来ある技術(これらにも多くの特許が含まれます)を取捨選択し、そこに我々のアイデアを加えた提案を行い、技術の標準方式として皆に承認されたという形です。技術の進歩は小さな石を積み上げて、高い山を築く作業です。従って、基礎となる小高い山が築かれている国や研究機関で新しい発見や発明が生じるものと思います。そう言った意味で私たちの成果は日本の通信技術者がこれまで築いた山の上に小さな石を1個置いたに過ぎないですが、外から見ると高い山に見えたということでしょう。
●謙虚な守倉くんのお人柄がにじみ出ているご発言ですね。これまでもいろいろ受賞されていますが、ご家族の反応はいかがですか。
◇家族にとってはそのような賞よりも、「賞金はいくらか?」の方が興味があるようです。今までも賞金は、関係者とのパーティ代ですべて使ってきたので、家族に対しての恩恵は特にありません。
●賞状や盾の類もいっぱいあると思いますが、書斎に飾っていらっしゃるんですか?
◇大学の教授室に置いてあります。
●昨年9月までNTTで研究されていましたが、出身校の京大大学院情報学研究科の教授となられていかがですか。
◇京大の先生方は各方面から多くの受賞をしていて、ノーベル賞に準ずるような表彰を貰えるような教授陣がいますので、凡庸な私としては汗をかいて努力するだけです。
安心安全で、快適な社会を実現するために通信という技術で如何に貢献できるかということを日々心がけて研究・教育しています。
●ますます、実るほど頭を垂れる稲穂かな、ですね。これからも健康に気をつけて、がんばってくださいね!
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