大阪府立大手前高校昭和50年卒同窓会     学年新聞vol_13  
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vol_13_04     「カンボジアのこと」  真田正明 

 昨年10月、東京・駒場の東大キャンパスでカンボジア和平15周年のシンポジウムが開かれました。NGO団体などが集まったカンボジア市民フォーラム主催で、外務省や朝日新聞などが後援しました。15周年というのは、カンボジアの内戦に終止符を打ったパリ和平協定が91年10月に結ばれたときからのことです。私がカンボジアに駐在したのはその翌年からでした。もう、そんなにたったのか、という思いです。
 シンポジウムでは、平和は回復したもののフン・セン首相の独裁が進む現状などが話題になりました。でも、ここではあまり難しい話はやめにします。いきなり食べ物の話です。
こおろぎ クリックすると大きく表示します  「空を飛ぶものは飛行機以外、四つ足はテーブル以外なんでも食べる」などといわれるのは中国人のことですが、実は私はカンボジア人のほうがもっと色んなものを食べるのではないかと思っています。それはたぶん内戦中に本当に食べるものがなくて、土に生えているもの、あるいは動くものなら何でも口にしたからでしょう。
 首都プノンペンは海から遠いので、動物性たんぱく質の主役は川のものです。みんなナマズや雷魚の類が大好物です。軽く焼いたやつをぶつ切りにして、野菜やパイナップルと一緒に煮たスープは、どこの食堂にもあります。ちょっと甘酸っぱい味で、これとご飯さえあればとりあえず満足できます。カエルや鳩は高級な食堂でも扱っています。このあたりはフランス料理にだってあるようですから、国連のPKOが入っているころは西洋人もよく食べていました。
 少し食材に凝った食堂に行くとオオトカゲやヘビ、鹿の肉などがおいてあります。カエルや爬虫類はだいたい鶏肉系の食感ですね。トカゲはちょっと硬いかな。鹿肉は柔らかくて美味です。脂肪が少ないので健康食かもしれません。カンボジアの東部や西部の山の方に行くと、小型の鹿がいるのですが、けっこう食べられてしまって数が減っているようです。よくは知らないのですが、珍しい種類だったら早めに保護策を考えないと、とは思うのですが。
 郊外の国道沿いのレストランでネズミのような動物を開いて干しているのを見かけましたが、これはさすがに食べませんでした。
 今はもう日本の援助で立派な橋が架かっていますが、以前はプノンペン郊外のトンレサップ川の渡し場に行くと、舟を待つ客相手にいろんな物売りが来ました。そこの名物は蜘蛛でした。胴体の直径5センチ近く、足を含めると10センチ以上ある立派なやつです。それを蒸し焼きのようにしてあります。足は細くてたべづらいけど、ちょっと蟹のような味です。
 一度食べて美味しいと思ったら、豊かになって他のものが食べられるようになっても、その味は忘れないものなのでしょうね。ナマコやホヤを最初に食べてみた人はよほど勇気があったのか、腹が減っていたのか。
 アンコール遺跡のある街、シエムレアプに1昨年最後に行ったときのことです。ちょうどコオロギのシーズンでした。もちろん食物としての。夜中にライトをつけた仕掛けを作っておくと、一晩でバケツ半分ぐらい取れることもあると、地元の人は話していました。
 トンレサップ湖に行くと今では、水上集落を巡る観光ボートがいっぱいいます。ボート乗り場の近くをうろついていると、おばさんたちが網で捕ったナマズの処理をしたりしています。最近のナマズは小さいなあ、などと思っていると、その近くでコオロギのから揚げを売っていました。小型のポリ袋一杯で20円かそこらです。一袋買って食べてみました。パリパリとした食感で香ばしく、醤油風の甘辛味でまずまずいけます。ただ一緒にいた女房は、ちょっと見ただけで口にはしませんでしたが。
こどもたち クリックすると大きく表示します  ボートで湖に出ると、近所の子供たちが上手にたらいを漕いで寄って来ます。みんな手を出すのはお金をせびっているのでしょう。観光客の中にはきっとあげる人もいるのでしょうが、私はこういう時にお金をあげるのは嫌いです。代わりに持っていたコウロギの袋を差し出すと、子どもの顔にぱっと笑顔が広がりました。「ちゃんとみんなで分けなよ」と身振りで示すと、隣の子にもちょっとあげたりして、バリバリとあっという間に食ってしまいました。
 正直言って私は2、3匹食って、もういいな、と思っていたのでした。


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