大阪府立大手前高校昭和50年卒同窓会     学年新聞vol_06  
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vol_06_03   チンはチン    小林 一則 

「チンしますか?」
 可愛いお姉ちゃんに言われて、モジモジ。うつむいた視線を自分のへその下に落とすのも何かいやらしい。東海林さだおの漫画の主人公ならほおは真っ赤に、目はハート印で、吹き出しの言葉は「ハフ、ハフ」。

 たかがコンビニで弁当を買ったぐらいで想像力をかきたてることもないが、そうなんだ。 電子レンジで温めるのをチンと言うことに、ハフハフのエロおやじは別にして何の抵抗もない。言い得て妙だ。最も短い日本語フレーズコンテストでは上位入賞は間違いない。メーカーも恐らくは意図せぬ代名詞に驚きというより、ここまでの定着にニンマリしているんじゃないだろうか。 チン
 業界の「電子レンジ終了通知音設置要綱実施要領細則」で決まっているわけじゃないだろうけど、どれも同じ。ブザーなら「ブーしますか」となって弁当がまずくなりそうだし、終わりのチャイムで「キンコンカンコンします?」。そんなやつおらんやろ。
 ワンワン、シーシーなど幼児言葉がこうじてかどうかは知らないが、擬態語そのままというのは少なくない。インターホンはピンポンで通じるし、ハンドソープは「キレイキレイ」の名で商品になっている。美しい日本語、声に出して読みたい日本語などちょっと前から日本語ブームになっているが、今風のチン、ピンポン言葉から揺り戻そうということなのか。

 でも言葉は面白い。ネーミングだけで商売になるほどで、製品の利点をそのままに「からまん棒」とした洗濯機が人気を集め、ドコモはイニシャルをうまく取ってどこでも電話のイメージを高めた。商品名ではかつては桃屋の「ごはんですよ」が珠玉で、僕らの若い頃に長門勇がCMに出ていた階段滑り止めの「スベラーズ」もユニークだったが、「タンスにゴン」「ハンコください」「鹿児島へ行ってきました」と出てくると、もう何でもありかい。 suntory_royal
 BRIDGESTONEとするとしゃれてるが創業者(石橋)を逆にしただけだし、SUNTORYも創業の鳥井さんの関係、Canonは観音さんにもじった。そんな中で、資生堂、大丸など昔の名前でしっかり出てくれているのがうれしいなあ。

 新聞社でも言葉を商売道具としているだけにその使い方には気をつかう。京都・千本釈迦堂の12月恒例の大根だきで、「参拝者に大根だきが振る舞われた」との記事を出したところ、読者から「振る舞われたとは何だ。わしは金を払った」とのお叱りがあった。異論はあるが、無料でもてなすのが振る舞いだと。

 商品名・商号にしても、一般記事の中では安易に使えないものがある。味の素を化学調味料と言い換えることに抵抗はないが、セロテープはニチバンの登録商標なのでセロハンテープとしなければならず、エレクトーンはヤマハ製なので電子ピアノに。マジックはフェルトペン、ガムテープは粘着テープ、セスナは軽飛行機…。マグドにユニクロなんかそのまま使った方がわかりやすいんだけどね。

 時代とともに言葉も変わりゆくとはいえ、四角四面にいかないのは世の常、人の常。テレビのチャンネルだってリモコンを押してるのに、「回してる」。タクシーのメーターも今でも「倒してる」。それでいいのだ。チンはチン。


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